うなぎ漁カードゲーム「うしのひ」制作ノート

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うしの

序論

この記事では、弊サークル tenclapsゲームマーケット2019春で頒布した うなぎ漁カードゲーム「うしのひ」 がどのように制作されたかを紹介する。特に次のようなかたにおすすめの記事である。

ちなみに、本カードゲームは イエローサブマリン 様、 メロンブックス 様 で購入可能である。ご興味のある方はぜひご購入いただければ幸いです。

shop.yellowsubmarine.co.jp

www.melonbooks.co.jp

企画開始

2018年夏ごろ、所属しているゲーム制作サークルでの開発が一段落し、次に何のゲームを作ろうかと検討し始めた。ちょうど私はボードゲームにハマっていたので、ボードゲームを作りたいと主張。そうする流れになった。

コンセプト

制作時に、次の2点を条件として掲げた。

  • バズるもの。

    • 弊ゲームサークルではこれまでに、ノベルゲーム・パズルゲーム・脱出ゲームなど、いくつかのゲームを制作してきた。どれもクオリティとしてはよくできていると自負しているが、ある意味で大人しい、初見でのパンチに欠けるものが多い印象であった。この点を払拭するため、今回制作するゲームはとにかくパンチがありバズってくれるものを制作しようということになった。
    • うなぎの漁獲高が年々減少していることは、毎年 Twitter で話題になっていた。うなぎを題材としたボードゲームがないか調査したところ、うなぎのみにフォーカスしたものは存在しなかったため、話題性も含めて題材は「うなぎ」と決定した。
  • 制作コストの低いもの

    • ゲーム制作で最も萎えるのは、ゲームが「エターナる」ことである。弊サークルはすでに複数のゲームを公開しており、「エターナる」ことに対する危惧はそこまで大きくなかったが、今まで何度かエターナりそうになったことがある(脱出ゲーム制作時に、1ステージの制作に2年かかったなど)のでその恐怖は感じていた。
    • これまでの制作経験から、もっとも時間的コストがかかる工程は作画だということが明らかであった。ゆえに今回のゲームでは、作画のコストをなるべく下げつつ全体のクオリティを維持することを重視した。
      • たとえば、うなぎの絵は1-5匹のみ描けばよい。背景は1種類を使い回す。人物のパーツで流用可能な部分は流用するなどの工夫をしていただいた。絵師さんには特にスピード重視、できたところまででよい、ということを徹底してもらった。
      • しかしこだわるところはこだわっており、蓋を開けたときに現れるうな重のイラストは(絶対必要というわけではないが)ちゃんと描いてもらっていたりする。
    • また、金銭的にも安価に制作できるものにしようとも思っていた。そのため特殊なコマなどは用意せず、すべてカードで完結できるような構成となるよう意識した。

テストプレイ

サークルメンバーが集まるのが1ヶ月に1回以下のペースのため、次の会合までに自分がルールを作り/修正し、会合でプレイして改善点を探す、ということを繰り返した。また、サークル以外の私的な集まりでも何度かテストプレイを行った。

テストプレイに使用したのは100円ショップで購入した蛍光ペン4色とカードのみであった。原価216円(消費税は8%であった)。

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うしのひ テストプレイ画像

第1案

第一案は、日本とマリアナ海溝とを往復するうなぎと、それを捕まえる漁船との陣営に分かれたすごろくのようなものであった。 しかしこれは爽快感がない、うなぎに不利すぎる、と非常に不評であった。

私的な集まりでプレイしていたところ、うなぎを捕まえるカードゲームにしてみてはとの助言をもらい、現在の「うしのひ」の原型ができるに至った。助言をくれたかたには感謝である。

ルールの確定

うなぎを題材にしたカードゲームにする、と決定した時点で箱のサイズやデザインのイメージは概ね浮かんだので、絵師さんには箱とうな重のイラスト制作を開始してもらった。

その後も1ヶ月に1回のペースでテストプレイを行い、ルールを詰めていった。1回に10ゲーム程度行ったので、おそらく全部で100ゲーム弱のテストプレイを行ったのだと思われる。漁獲高を隠せる、というコンセプトははじめからあったが、何枚隠せるのか、隠すものを変更することはできるか、パスをしたらそのあとの人はどうなるか、など、細かいルールを変更することで微妙にバランスが変わっていくので調整に苦労した。強化学習を行えばちょうどいいバランスのルールが見つかるのではという提案もサークルメンバーからあったのだが、まぁなんとなくいいバランスになっていればいいだろうということでそこまではしなかった。怠惰。

最終的にルールが確定したのは2019年1月ごろ(入稿直前)であった。

制作

ルール確定前から背景や勝利カードの作画などは進めてあったので、制作の終わりごろに負荷が集中することもなく制作を終わらせることができた。安価に印刷するために、ゲームマーケット開催日よりもかなり前に制作を終わらせなければならなかったことも進行を後押しした。

また、必要な素材を一覧にしたシートをベースにして、全体の進捗を毎月確認できたことも、バランスの良い制作進行に寄与したと思われる。これは、素材量が15程度と、シート1枚で十分に一覧できる量だったことも影響していると考えられる。これより作業量が多くなると、終わりが見えずに作業に身が入らなかったのではないかと危惧する。それゆえ、大規模なゲームを制作できる人/サークルはすごいなぁという思いだ。

これらに加えて、絶対に必要な素材から制作し、なくてもなんとかなるものは進行が押したらその都度切っていくという判断を徹底したことも功を奏した。たとえばパスをした人を示すカードは初版には間に合わなかった(なくても問題なくプレイできるが、あると「誰がパスをしたか」を暗記しなくてよくなる)。また初期の案では勝利条件別に勝利カードのデザインが異なっていたが、これも製作コストの観点から一本化した。

梱包

萬印堂さまの初心者パックで印刷をし、Yahoo! LODGE にて梱包した。パソコンで作業している人たちの横でカードを延々と箱詰めしているのは異様な光景であったとは思う。こういう場が東京にあるというのは非常に助かるので、金銭的に余裕がある企業はぜひとも同様の試みを広げていただきたい。このように宣伝もさせていただくので。ありがとうございました。Yahoo! カードも持ってます。

宣伝

Twitter で宣伝をした。心優しいフォロワーさまがたが広めてくださった。

頒布

一般参加者として参加しているぶんには、ゲームマーケットコミックマーケットなどの同人誌即売会と比較して頒布物が高額であるためか、企業色が強いイベントだなぁという印象があった(個人の感想です)。しかし頒布側に回ってみると大きな変化はなかった。ほかの同人誌即売会と比べて一般参加者が積極的に出展者に声をかけてくれる印象があり、また長時間考えてから買ってくれる人がほかと比べて多い印象であった。これらは頒布物の性質によるものであろう。

ゲームのルールに関する質問をいただくことが多いので、たとえば全くの部外者にその日だけ売り子をお願いするということは難しい。そうする場合は説明マニュアルが必要となるだろう。

総括

発案から頒布まで9ヶ月程度と、もともとのコンセプト「エターナらない」に至極忠実に制作できたと感じている。売れ行きも上々で、ゲームマーケット当日は13時頃完売、次のゲームマーケットで再販もさせていただいた(現在でも、イエローサブマリンメロンブックスにて購入可能である)。ゲーム性としても、ちゃんとカードゲームであると言うに足る面白さにはなっていると自負している。全体としてとてもうまくいったゲーム制作だったと感じる。

この記録がなんの役に立つのかわからないが、将来ボードゲームを制作しようとするかたの一助になれば幸いである。

tenclaps 楷ノ木かえで